くも膜下出血とは

 くも膜下出血の原因の大部分は脳血管が枝分かれする部分が膨らんでできたコブ(脳動脈瘤)が破裂することにより起こります。くも膜下出血は半数以上のかたが死亡するか社会復帰不可能な障害を残し、障害なく社会復帰可能な人は3~4人に1人という厳しい病気です。

 

くも膜下出血の症状

 突然生じる激しい頭痛と嘔吐です。助かった患者さんの話を聞くと、「バットで殴られたような」とか、「今まで経験したことのないような」突発する頭痛であったと表現されるかたが大部分です。

 

くも膜下出血の診断

くも膜下出血が疑われる場合、頭部CTを撮れば多くの例で診断可能です。左の矢印の白く見える部分がくも膜下出血です。

 

 

 

 

 

 

左のCTは正常例で、くも膜下腔には髄液があるため黒く見えます。上のくも膜下出血例と比べれば一目瞭然です。

 

 

 

 

 

 

 

脳動脈瘤の部位診断

 頭部CTでくも膜下出血の診断がついたら、次は治療を行うために脳動脈瘤の場所、大きさ、形を診断することが必要になります。以前は全例カテーテルを動脈内に入れ、脳血管撮影を行っていましたが、最近ではマルチスライスCTの出現により造影剤を点滴しながら頭部CTを撮影することにより左のように脳動脈瘤を比較的容易に見ることが可能になりました。

 

 

くも膜下出血の治療

 くも膜下出血を起こして運び込まれた患者さんの脳動脈瘤は一旦出血は止まっていることが大部分です。ところが治療を行わないと高率に再破裂をきたし、再破裂を繰り返すたびに救命率が低下します。このため、まず第一に行うべき治療は脳動脈瘤が再破裂しないようにすることです。治療法には開頭脳動脈瘤頚部クリッピング術とコイル塞栓術があります。どちらを選択するかは脳動脈瘤の部位、形、大きさ、患者さんの年齢、意識状態などにより決められます。

 

脳動脈瘤頚部クリッピング術

 上の写真がクリッピング術の術中写真です。脳動脈瘤をチタン製のクリップで挟み、壁が破れやすい脳動脈瘤へ血液が流入しないようにすることで破裂しないようにします。

 

 左上段が手術前、左下段が手術後の3DCTAです。脳動脈瘤頚部がクリップで挟まれ、脳動脈瘤が造影されなくなっています。

 

 

 

コイル塞栓術

 コイル塞栓術とは血管内にカテーテルを挿入し、脳動脈瘤の近くまでカテーテルを上げ、金属製のコイルで脳動脈瘤の内腔を閉塞させるものです。上は左が術前、右が術後の脳血管撮影です。脳動脈瘤の内部がコイルで閉塞され、脳動脈瘤は造影されなくなっています。クリッピングと同様、脳動脈瘤内部へ血液が入らなくすることにより再破裂を予防します。

 

 未破裂脳動脈瘤の治療ですとここまでで終わりとなりますが、くも膜下出血を起こすとこれで終わりではありません。脳動脈瘤の再破裂防止の手術がうまくいったからといってまだ安心はできないのです。次に乗り越えるべき大きな問題は脳血管攣縮です。

 

脳血管攣縮

 通常、血液は血管内を流れています。脳動脈瘤が破れ、くも膜下出血を起こすと血液が血管外に出るわけですから脳血管の外に血液が付着します。これが原因となり発症後4-5日目頃から2週間目頃にかけて脳血管攣縮が起こります。左上段が脳血管攣縮を起こした例の3DCTAです。左下段の正常例と比べ明らかに血管が細くなっているのがわかります。2週間目をすぎると脳血管攣縮は消失し元の血管径に戻ります。ただ、その程度が問題であり、高度に細くなるとその先に血液が行かないため脳梗塞に陥ります。脳血管攣縮の予防薬は出てきていますが、まだ完全に予防はできません。できてしまった脳梗塞の場所によっては、麻痺が生じたり、言葉が出なくなったり、視野が欠けたりなどの症状が出現し、ひどくなると寝たきりになったり死亡したりします。ですから、脳動脈瘤の再破裂防止手術が終わっても2週間は気を抜けない時期が続くことになります。

 

 くも膜下出血の発症から約2週間を乗り切れば、ほぼ生命の危険性はなくなります。ところがこれで終わりではありません。最後の関門が水頭症になります。

 

正常圧水頭症

 脳血管攣縮の時期を過ぎた3-4週目頃になり、そろそろ退院かと思っていると、正常圧水頭症が生じてくることがあります。これは脳室とよばれる脳の中の水が元々たまっている場所に、過剰に髄液がたまり、脳組織が外に圧迫されることによって起こるものです。歩行障害、尿失禁、認知症で発症します。治療法は正常圧水頭症のところに記載したシャント術を行うことにより大部分は症状が消失します。ここまでの時期を乗り切って、やっと退院ということになります。