慢性硬膜下血腫とは

 頭部外傷後、数週から1,2ヶ月経過した慢性期に、頭蓋骨の下で脳表を覆っている硬膜と、脳とのすき間に古い血液が貯まり、脳が圧迫されることにより起こる病気です。尻もちをついたり、頭を軽く壁にぶつけたりといった軽微な頭部外傷後の慢性期に、片麻痺(歩行障害、上肢の脱力)や認知症、尿失禁、頭痛などで発症します。若年者ではまれであり、中年以降、特に高齢の男性に多くみられ(脳の萎縮が進み、脳と硬膜とのすき間が大きくなっているため)、高齢化とともに患者数は増加傾向です。高齢者で頭部を打撲した場合、1-2ヶ月くらいは上記症状が出てこないか注意が必要です。

 

慢性硬膜下血腫の診断

 軽微な外傷後に起こり、明らかな外傷がはっきりしないこともみられますが、高齢者で、頭部外傷後に片麻痺、認知症、尿失禁、頭痛などの症状が出てきたら慢性硬膜下血腫を疑い、頭部CTかMRIが必要です。頭部CTまたはMRIにより比較的容易に診断可能です。

 

慢性硬膜下血腫の治療

 慢性硬膜下血腫の治療は手術です。手術は局所麻酔下に頭部に約3センチ程度の皮膚切開を加え、径1センチ程度の穴を開け、硬膜を切開し血腫内部の古い血液を排出し、内部の洗浄を行う穿頭血腫洗浄術を行います。ふつうは術直後から症状が軽快します。比較的簡単な30分程度で終わる手術で、脳神経外科になりたての先生がまず最初に行う手術です。簡単な手術で、劇的に症状が改善し、完治する予後の良い疾患です。

 

左上が術前の頭部CTです。白い矢印の部分が慢性硬膜下血腫であり、血腫の圧迫により黄色い矢印のように脳は反対側に圧迫され正中構造物は向かって左に偏位しています。

 

 

 

 

 

 

左下が術後の頭部CTです。圧迫が解除され、向かって左に圧迫されていた脳組織は元の位置に戻り、ほぼ左右対称となっています。

慢性硬膜下血腫の問題点

 慢性硬膜下血腫は上記のように比較的簡単な手術で治る病気ですが、術後の再発が約1割に生じます。高齢者では脳の萎縮が進み、脳表と硬膜との間のすき間が大きくなっているために軽度の外傷で慢性硬膜下血腫が生じやすい状態であり、再発して症状が出てきたら再手術が必要となります。

 血腫の厚さがそれほどでもなかったり、無症状である場合はケタスや五苓散といった薬の内服が血腫の自然な消失を促進するのに有効との報告があり、実際、内服により消失していく例もあります。