頸椎椎間板ヘルニア、変形性頚椎症とは

 頸椎(首の骨)は7つの骨で構成されており、頸椎と頸椎との間は椎間板という柔らかいクッションのような組織で連結されています。7つの骨とその間をつなぐクッションにより我々は頚部を自由に動かせるわけです。年齢が加わることにより椎間板が変性したり、頸椎が変形して棘(トゲ)のような部分ができ、後方に突出したりしてきます。後方には脊髄とそこから枝分かれした脊髄神経がありますから、それらが飛び出した椎間板ヘルニアや骨の棘(トゲ)により圧迫されることで様々な症状が出現してくるのが頸椎椎間板ヘルニア、変形性頚椎症です。  

 

 上の頸椎MRIはヒトの頚部の縦の断面を見たものであり、縦にカーブを描いて黒く見えるのが脊髄です。脊髄の前後に白く見えるのは脳脊髄液であり、脊髄のまわりには脳脊髄液の存在する隙間があり、何も当っていないのが正常です。右は左を拡大した図ですが、黄色矢印の部分が椎間板が後方に突出した椎間板ヘルニアで、脊髄を圧迫しているのがわかります。椎間板ヘルニアが出た部分は脳脊髄液のある隙間が見えなくなり、脊髄が前方から圧迫されています。

 

 上の頸椎MRIはヒトの頚部の水平断面を見たもので、右が正常例です。中央にソラマメ状に見えるのが脊髄で、その周囲に白くリング状に見えるのが脳脊髄液のある隙間です。脊髄周囲にはこのように隙間があり、何も当っていないのが正常です。

 上の左が椎間板ヘルニア例で、前方からヘルニアが突出し、脊髄に前方から当たり、脊髄が扁平な形に変形しているのがわかります。

 

頸椎椎間板ヘルニア、頚椎症の症状

 ヒトが手足を動かせるのは脳からの電気信号が脊髄とそこから枝分かれした脊髄神経を通り、筋肉に伝わり、収縮させることにより動かせます。感覚を感じるのは、皮膚などにある感覚神経細胞が電気的に興奮し、その電気信号が脊髄神経、脊髄を通り、脳に伝わることにより感じます。要するに、脊髄、脊髄神経とはヒトの体を動かしたり、感覚を伝えたりする電線です。このヒトの電線に相当する脊髄や脊髄神経が、ヘルニアや骨棘により圧迫されることにより症状が出てくるわけです。

  運動面では箸を使ったり、ボタン掛けをしたりといった細かな手指の動作がしにくくなったり、足がスムーズに動かずに歩きにくくなったりします。

  感覚面では手や腕、肩や背中、前胸部がしびれたり、ジリジリしたり、痛くなったり、感覚が鈍くなったりします。

 

頸椎椎間板ヘルニア、頚椎症の治療

 症状が軽ければ鎮痛薬やビタミン剤(ビタミンB12)の内服や、夜間の頸椎カラーによる固定で様子をみます。こうした保存的治療で症状が治まらない場合は手術が必要となります。

 

頸椎椎間板ヘルニア、頚椎症の手術

 頸椎の手術は大きく分けて2通りあります。前方から脊髄や脊髄神経を圧迫する原因を取り除き、固定を行う前方除圧固定術と、後方から脊髄の入った脊柱管の拡大を図る椎弓形成術です。一般的に前方からの圧迫が2カ所までであれば前方除圧術が、3カ所以上におよぶ場合は後方からの椎弓形成術が行われます。

 

頸椎前方除圧固定術

  頸椎前方除圧固定術は、頚部の前面に約5センチ程度の皮膚切開を加え、皮下の組織を剥離し、頸椎前面の気管と食道を反対側によけ、椎体前面に到達し、頸椎間の椎間板および後方に突出したヘルニアや骨棘を切除し、椎間にチタン製のケージを挿入し固定する手術です。

 上のMRIは術前後の頸椎水平断です。右の黄色矢印部分の椎間板ヘルニアが摘出され、脊髄への圧迫が消失し、脊髄の変形も解消しています。

 

 上は術後の頸椎CTです。上2枚は3D-CTです。椎間板を摘出すると頸椎間のクッションがなくなります。以前は腰部に切開を加え、骨盤から骨を採取し、椎間に移植していました。この方法ですと、骨採取部の痛みが問題になったり、術後移植した腸骨が生着するまで頸椎の外固定をしっかりと行わなくてはなりませんでした。近年は上のようなネジが切られた、内部に空洞のあるチタン製ケージを用いて椎体間固定を行うことが多くなり、術後の外固定もさほど強固ではなく、外固定期間も短くて済むようになりました。

 脊髄にキズが入った(上のMRIの条件でキズの部分は脊髄の中が白く見えます)後に手術をしても手足のシビレなどが残存することが多いですが、脊髄にキズが入る前に手術を行うと、この前方除圧固定術では直後から症状が消失することが多く、非常に切れ味の良い手術です。

 頸椎の手術というと、術後に手足が動かなくなると聞いたことがあり、恐いと言われる患者さんもおられます。ただ、最近では手術用の顕微鏡を用いたていねいな手術を行いますのでほとんど心配なくなってきています。

 

頸椎椎弓形成術

 一般的に前方からの圧迫が2カ所までですと前方除圧固定術が行われることが多いですが、圧迫が3カ所以上であったり、脊柱管(脊髄の通る管状の空間)が多椎間にわたって狭小化している場合は後方からの椎弓形成術が行われます。

 手術は頚部の後方正中に10センチ前後の切開を加えます。次に頸椎の椎弓を露出させ、椎弓を正中で切り離し、両側で溝を作製します。椎弓を後方に骨折させ、椎弓の間にアパセラム製のスペーサーを入れ、固定することにより脊柱管を拡大します。

 上は術前後の頸椎CTです。左の頸椎の点線部分をドリルを用いて切り離し、左右の黄色矢印部を部分的にドリルで削り溝を作製し、椎弓を後方に骨折させ、間にアパセラム製のスペーサーを入ることにより脊柱管を拡大します。

 

 上は変形性頚椎症による頚部脊柱管(脊髄の通る管状の空間)狭窄がある例のMRIです。術前は左のように4カ所で前後から脊髄の圧迫がみられましたが後方から脊柱管を拡大することにより、術後は脊髄前後の髄液腔が見えるようになり、脊髄への圧迫が消失しています。

 

 上は同じ例の頸椎MRI水平断です。術前は脊柱管の前後が狭く、脊髄が扁平な形に変形しています。術後は脊髄への圧迫が解除され、脊髄の形が元に戻り、周囲の脳脊髄液のスペース(脊髄周囲の白いリング状の部分)もよく見えるようになっています。